ギャラリー無量キュレーション公募2023採択企画
記憶をほどく、編みなおす
2023.10. 7{土} ー11.6{月}
土・日・月曜日 開廊
キュレーター:清水冴
アーティスト:石田愛莉、中森あかね、
ジョイス・ラム、O33、富山妙子(特別出品)
鑑賞料 500円/人 ※関連事業に参加される方も鑑賞料が必要です
関連事業
2023.10. 7{土}13:00ー15:00
・アーティスト・トーク
アーティスト×キュレーターによるオープニングトーク
予約申込 10名
2023.10.21{土}10:30ー12:00
・読書会
宮地尚子『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房2007)を読みながら
自由に話したり、「環状島」を描いて見たりします。予約申込5名
主催:麦人
2023.10.28{土}14:00ー15:30
・喪失のダイアローグ
わかちあいの会を開催します。一般の方に公開します。予約申込8名
対象:身近な方を亡くされた方
主催:中森あかね
2023.11. 4{土}17:00ー18:00
・クロージング・トーク
長谷川新氏(インディペンデントキュレーター)をゲストに招き、清水冴(本展キュレーター )、小西信英(ギャラリー無量)とクロストーキングを開催します。
予約申込 10名
・展覧会批評
レベッカ・ジェニスン(京都精華大学名誉教授)
展覧会ステイトメント
「記憶をほどく、 編みなおす」 は、東アジアにルーツを持つ現代美術作家たちが、富山 県・砺波市の散居村風景に佇む日本家屋を舞台に、それぞれの幼少期の記憶や経験をひも とき、語りなおすことで、社会の周縁の物語を人びとに想像させる。
出品作家の石田愛莉 (2000-)は、家族の古着、糸や布を用い、祖母から教えてもらった 手編みによって、個人的な記憶や経験が集合的記憶から取りこぼされ、 忘却されることに 抵抗する作品を手掛けてきた。 近代女性の家庭内の労働・趣味であった手芸は、1970年代 のフェミニスト・アートをはじめ、 社会的に抑圧された人びとのアイデンティティや、社 会構造を批判する手法として扱われてきた。 タイトルの通り、本展は「手芸」 というモ チーフからインスピレーションを得て、 展覧会全体がさまざまな物語の交差するパッチ ワークをイメージしている。また、 中森あかね (1962-)は、幼少期に父を自死で失い、2021 年に自助グループを仲間と共に立ち上げ、自死遺族のわかちあいの場所をつくり、2022年 より、 死者とその死にまつわる人びとの尊厳をテーマに制作を始めた。 返還前の香港に生 まれたジョイス・ラム (1989-)は、家族とともにカナダへ移住し、中国返還後に香港へ戻 るという幼少期を過ごした。 自身の家族の歴史に基づき、 近代の家族制度や「ホーム」と いう概念を多面的に考察し、そこに浮かび上がる矛盾や、 包摂と排除のメカニズムを捉え る作品を手掛けてきた。033 (OU SanSan、 1993-)は、中国・ 内モンゴルで生まれ育った エスニック・マイノリティとしてのアイデンティティをテーマに、モンゴル民族を象徴す る五畜の一つ、 羊の腸を素材として制作している。この世界に存在するさまざまな「境 界」-生と死、自己と他者、マジョリティとマイノリティーの曖昧さ、儚さを視覚化して きた。富山妙子(1921-2021) は、 神戸に生まれ、幼少期を家族とともに占領下の旧満州で あるハルビンと大連で過ごた。占領下の人びとを目の当たりにし、日本人としての葛藤を 抱えながら、生涯に渡って戦争の苦しみを描いてきた。 今回は、2021年に99歳で逝去され た富山妙子の遺族と関係者の全面的な協力を得て、出品に至った。
芸術には、自己とは異なる「他者」の記憶や経験を想像させる力がある。 すべての人び とが人間としての尊厳を持って生きてくために、私たちには「他者」の言葉にならない違 和感、不安、悲しみや痛みを想像する力が必要だ。 本展に訪れた人びとが、 作品のなか に、自己と響き合う 「何か」を見つけことができれば幸いである。
清水 冴(キュレーター)